新規抗精神病薬レキサルティについて
また、というか、久しぶりに?新規抗精神病薬が登場しますね。
新規抗精神病薬「レキサルティ®錠」
統合失調症の適応で国内製造販売承認を取得
一般名は「ブレクスピプラゾール」。
ひとまず統合失調症の適応症が承認されました。
その名前から何となく察しが付くように、
アリピプラゾール(商品名:エビリファイ®)のフルモデルチェンジみたいな薬でしょうか。
「ブレイクスルー」みたいな名前はわざとでしょうか?(笑)
ちょっとよく分かりませんが、
統合失調症治療薬はいくつも新薬が出てきているにもかかわらず
全体的な治療効果としてはどれもパッとしないものばかりで
とりあえず「選択肢が増える」という点では意義があるというレベルなので
このブレクスピプラゾールがどういうものになるのか、
やはり精神科の薬剤師としては興味津々なわけです。
ひとまず先にリンクした大塚製薬のプレスリリースによれば
薬理作用としてはドパミンD2のみならず
セロトニン5HT1Aのパーシャルアゴニストであり、
セロトニン5HT2Aのアンタゴニストという
Serotonin-Dopamine Activity Modulator(SDAM)
と呼ばれる新しい作用機序だそうです。
インタビューフォームを読む限りは他にもノルアドレナリンα1Bとα2Cも同様のレベルでブロックするみたいです。
とはいえ、
そのような薬理作用が臨床効果としてどのように現れるかは
受容体親和性を眺めながらゴチャゴチャ理屈を考えるよりも
既に報告されている臨床疫学的研究を読むほうがスッキリしますので
とりあえずそっちのほうを先に読んでみましょう。
承認審査資料を読めば国内での臨床試験のことがわかりますが、
重たいPDFの資料を読むよりは
PubMedでRCTやSRを読むほうが早いので今回はそうします。
brexpiprazole schizophreniaでシステマティックレビューを検索すると
これが一番新しそうですね。
Correll CU, et al.
Efficacy of brexpiprazole in patients with acute schizophrenia: Review of three randomized, double-blind, placebo-controlled studies.
Schizophr Res. 2016Jul;174(1-3):82-92.
PubMed PMID: 27157799.
で、フリーで全文読めるのでざっと読んでみましたけど、
まだ統合失調症に関してはRCT3つしか論文になってないのね……(^^;)
それでまあ、プラセボと比較して有効なのは当たり前なので
アリピプラゾールと直接比較してるところを読んでみたところ、
"none of the active groups (brexpiprazole or aripiprazole) were significantly different from placebo for change from baseline in PANSS total score at week 6"
え?どっちもプラセボと有意差がつかなかったってこと!?
ダメじゃん!(´・ω・`)
ま、まあまだフェーズ2試験ということで探索的な意味合いが強いので
十分なサンプルサイズがなかったのかもしれません。
別のブレクスvsアリピの論文を探してみましょう。
RCTとして報告されてました。
Citrome L, et al.
The effect of brexpiprazole (OPC-34712) and aripiprazole in adult patients with acute schizophrenia: results from a randomized, exploratory study.
Int Clin Psychopharmacol. 2016 Jul;31(4):192-201.
PubMed PMID: 26963842.
初発と入院期間が21日以上は除外した統合失調症患者でのオープンラベルな試験ですね。
それでまあ、両群ともベースラインとの比較でPANSS総スコアを改善しています。
知りたかったのは両群間の差なんですけど、スルーされてますね……
まあ数字的にはブレクスのほうが改善してそうです。
(6週時点でブレクス-22.9点、アリピ-19.4点)
が、さっきのフェーズ2試験にしてもこっちの試験にしても
なんでアリピのtarget doseが15mgなんですか?
御社普段「統合失調症の急性期には初回から24mg以上使って」
とか言ってるくせにこれは少なくね?
だからといってブレクスピプラゾールの有効性がアリピプラゾールに劣っているというわけではないので、まあ優れているともいえませんけど、用量設定が疑問すぎて同等なのかどうかも分からないので、ちょっと有効性についてはモヤモヤしますね。
一方で注目に値するのはアカシジアの少なさです。
アリピって個人的には好きでよく処方提案させていただく薬なんですけど、
結構アカシジア出ちゃって主治医と患者さんに「ゴメンナサイ」と思うことあるんですが
上記のCitromeらのRCTではアリピが21.2%に比べてブレクスで9.4%という
アカシジアの発生率はなかなか良さそうな印象です。
……ってこれオープンラベルでしたね。
先に紹介したSRのほうで確認してみますと(こちらは二重盲検)
Supplementaryに有害事象のデータがあるのですが、
ブレクスピプラゾールもアリピプラゾールも特に違うようには見えない(^^;)
こちらもアリピのtarget doseは15mgなんですけどね。うーむ。
しかしまあ、
その他の副作用はさすがアリピの後継モデルだけあって
他の抗精神病薬と比べると体重増加や脂質異常、過鎮静などは少なそうです。
ということで、ざっくりとしたエビデンスレビューにしたかったのに
話が長くなりそうなのでそろそろまとめますが、
ブレクスピプラゾールは作用機序の点やこれまでに報告されたRCTの結果から推察するに、アリピプラゾールと同様な感覚で使える抗精神病薬なのではないかなと思います。
もう少しデータが増えないと判断できませんが、
アカシジアは少ない可能性があります。
有効性については、これまたよく考えると、海外でのRCTがどれも3〜4mg使ってるのに対して国内承認用量は1mgから開始して2mgまでとなってるんですよね。
それこそここで紹介した論文ではブレクス3mgに対してアリピ15mgを比較してるので、2mgでホントに効くんかいな?という気もします。
まあ、その辺のいきさつはきっと承認審査資料を読み込むマニアみたいな人がいますからそういう人の解説を待つことにして(笑)今回はとりあえず短時間でのエビデンスレビューによってブレクスピプラゾールの有効性と安全性について大雑把に考察してみました。
もっと面白い情報がありましたら、一緒にシェアしていきましょう。
JUGEMテーマ:精神科
- 2018.01.22 Monday
- EBMネタ帳
- 23:40
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- by hidex