統合失調症の再発予防と抗精神病薬
このような「何を今さら」という話であっても
こうして何かの機会にアップデートしておくことは良いことだ。
読もうと思ってコピーとっといたやつを
遅くなったけどこのたびやっと読むことができたので記事にしてみる。
ちなみにこの論文。
Lancet. 2012 Jun 2;379(9831):2063-71. Epub 2012 May 3.
Antipsychotic drugs versus placebo for relapse prevention in schizophrenia: a systematic review and meta-analysis.
Leucht S, Tardy M, Komossa K, Heres S, Kissling W, Salanti G, Davis JM.
統合失調症の薬物療法に関わる人、
特に医師、薬剤師、それから疾患教育などで治療の効果など説明する人は
最新のエビデンスとしてぜひ目を通しておいていただきたい。
簡単に概略を述べれば、
これは薬物療法に関するプラセボ対照RCTを対象にしたシステマティックレビューで、主要なデータベースだけでなく未掲載の研究も網羅し、
本文中にはあまり詳しく書いてないが、
対象とした研究の質の評価や不均質性の評価もしているみたいなので
とりあえずシステマティックレビューとして信頼に足るレベルにあると判断する。
まず、この論文が示す最も重要な結果は
統合失調症の1年間の再発率は
抗精神病薬・・・27%
プラセボ(偽薬)・・・64%
であり、NNTは3というものである。
これだけ効果の差が歴然としていれば
統合失調症の再発予防として抗精神病薬を使うということにためらいは無いだろう。しかしこの論文で興味深いのはその後の詳細な解析である。
まず副作用を含めたアウトカム別に結果を見てみよう。
再入院や治療中断、暴力行為は抗精神病薬で明らかに抑制できる。
一方で自殺やその他死亡、就労についてはプラセボと差は認められず、
運動障害(パーキンソニズムなど)や過鎮静、体重増加といった点では
抗精神病薬による治療は明らかに不利に働くことが判明している。
(ただしジスキネジアは抗精神病薬の方が有利。ジスキネジアは抗精神病薬の副作用ではあるが、おそらくはプラセボ投与=抗精神病薬の中断はジスキネジアをかえって悪化させるためであろう)
次に7〜12ヶ月での再発というアウトカムで様々なサブグループ解析を見ると、
初回エピソードであるかどうかや寛解まで至ったかどうかは
統合失調症の再発リスクには関係がない。
そして様々な抗精神病薬のうち最も再発リスクが少なかったのは、
なんとハロペリドールのデポ剤とフルフェナジンのデポ剤である(^^;;;
(経口剤と比較して統計学的にも有意に再発を抑制しているようだ)
ちなみに、やはり多剤併用は単剤と変わりが無いみたい。
おまけを一つ言うと、
試験が盲検化されていたかオープンだったかは
明らかにオープン試験の方が成績が良いようだ。
やっぱりダブルブラインドは大切だね☆
(統合失調症に対するプラセボ効果は高いという意味にとってもいいだろう)
これらのことから、ワタクシの立場から何が言いたいかと言うと、
まず、統合失調症に対する抗精神病薬による再発予防治療は
やっぱり必須の選択と言っていいんじゃないかということ。
治療を怠ると、少なくとも1年間で3人のうち2人ぐらい再発するということ。
一方で、抗精神病薬ってもちろん薬によって程度の差はあるわけだけど
なんだかんだ言って全体的にはやっぱり体重増えやすいみたいだから
食事や運動の管理もしっかり必要ってこと。
また、再発予防という点、すなわち薬の効果の面では
いわゆる第一世代薬も第二世代薬も大差ないみたいで
それこそ単純な効果だけで言えばデポ剤の方が良いわけだから
そのような古い薬を治療の選択から外すのはモッタイナイことである一方で
効果の面で同じなら、副作用の面から薬剤を選択した方が良いということになり
患者さんの症状だけを見て治療継続していくのではなく
患者さんの服薬状況や副作用状況を丁寧に聴取することが大事だということであって
そのあたりは薬剤師が大いに関われる得意分野じゃないかってこと。
とりあえずビール飲みながらざっと読んでみた感じではそんなところですが
ご意見ありましたら教えて下さい。一緒に味わってみましょう(^^)
- 2012.07.21 Saturday
- EBMネタ帳
- 21:33
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- by hidex
比較的、信用性の高い研究などの記事とても参考になりました。有難いです。
ほかの記事も読ませていただき、勉強させていただきます。