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【JJCLIP】番外編「高山病予防にアセタゾラミドは有効か?」を富士山に登って読んでみました

一緒に抄読会配信をしている@syuichiao先生は
ご自身のブログ記事「構造主義薬学論−薬剤効果−」の中で
このように述べられています。

「人は薬剤効果を裏付けたエビデンスの存在と言うよりはむしろ自分の認識の中で意味のある物かどうかと言うところで薬の効果を判断しています。すなわち薬が効いたのか効かないのかは多くの場合、個々個人の文脈に依存しています。」

つまり薬が効いたか効かないかは、医療者や患者さん個々の
経験や価値観、その場の空気みたいなものに左右されるということです。
これは我々がEBMを実践するために論文を読む時も同じです。
その批判的吟味や臨床への適用は通常、極めて文脈依存的です。
それは例えば同じ論文を一人で読む時と比べて、
そしてワークショップやJJCLIP抄読会でみんなで読むと、
論文の評価やシナリオへの適用が何か違うことを経験した人なら
容易に想像がつくと思います。
また、医療者も病気になったり、薬を飲んだりします。
自分に適用するエビデンスというのは、一体どのように見えるのでしょうか?

そこで今回、以下のようなシナリオを考えました。

////////////////
[仮想症例シナリオ]
あなたはEBMスタイルによる学びを実践し始めた30代の薬剤師です。何度かJJCLIPの配信に参加して、近くのEBMワークショップにも行ってみて良い刺激を受けてきました。そこで職場で思い切って抄読会を開催してみましたが、他の薬剤師の反応は芳しくありません。
あなたは仕事で鬱積したモヤモヤ感を抄読会を通して振り払いたかったのに、かえってモヤモヤ感が強まる結果になってしまいました。一体どうすればいいのか?あなたはその答えを、思いっきり非日常の世界に飛び込む経験を通して考えてみようと思いました。
比較的実現可能性のある非日常の世界……あなたは富士登山を思い付きました!昔登ってみたことがあって、あの時は高山病になりかけてしんどかったけど、日常ではありえない世界に身を置いてストイックに自分と対話できたのはあれが一番だったと思ったのです。
しかし、以前登った時から10年以上経過し、正直体力には自信がありません。もしかして高山病になるんではなかろうか?そういえば、高山病予防にはアセタゾラミドが有効と聞いたことがあるが、それはどれぐらい有効なのだろうか?有効だとしたら何mg飲めば良いのだろうか?
気になったあなたは、早速PubMedを検索してみると以下の論文を見つけたので、あなたはこれを読んでみることにしました。

[文献タイトル・出典]
Low EV, Avery AJ, Gupta V, Schedlbauer A, Grocott MP.
Identifying the lowest effective dose of acetazolamide for the prophylaxis of acute mountain sickness: systematic review and meta-analysis.
BMJ. 2012; 345: e6779.
PMID: 23081689
フルテキストをこちらから入手しましょう→こちらをクリック
////////////////

今回はこれをワタクシ単独で富士山に登り、
山頂に至るまでの過程で批判的吟味をしつつ、
それをツイッターで文字で配信し、
(iPhoneの通信環境とバッテリーの問題でツイキャス配信はせず)
そして山頂でシナリオへの適用をするという企画をしました。

以下、それをまとめました。
(ツイートしたことを軸に加筆修正や訂正を加えています)

なお、論文の批判的吟味には
@syuichiao先生の簡単なワークシートを使いましたので、
これから一緒に富士山に登りながら一緒に読んでる気分になりたい方は
そちらも手元に用意して、以下に進んで下さい。


(バスに乗って樹海を抜けると・・・)


(眼下に一面の雲海が!)

さて、改めて簡単に説明しますと、これは高山病予防のためのアセタゾラミドとプラセボとのRCTをメタ解析したシステマティックレビューという位置づけになりますね。用量ごとの解析がありますので、高山病予防のためにはアセタゾラミドを最低何mg飲めば良いかという示唆を与えてくれるものです。


(雲海に沈みゆく夕日にしばし見とれる)

ちなみに、国際山岳連盟医療部会は急性高山病の治療にアセタゾラミド1回250mg1日2回を推奨していますね。
http://www.jsmmed.org/_userdata/no2.pdf


(食事を済ませ、風をしのげるところで仮眠をとります)

(ここは直接関係無い雑感。それにしてもワタクシは、シナリオの薬剤師さんが抄読会でみんなの反応がイマイチになっちゃった原因の一つは、やっぱり臨場感というか、リアリティが無かったのかもしれないとも思うんですよね、自分で作りながら思ったんですが。興味を呼び起こさないとなかなか他人は乗ってきませんもんね。だからこういうアホな企画があったらアツいんじゃないかと思ったんですよ)

ではここで薬剤師向けにアセタゾラミドの高山病という病態に対する作用機序をおさらいしましょう。
この腕時計、気圧測定ができるんですが、765hPaを示しています。

これがおよそ標高2500mの富士山五合目の気圧で、つまり地上の3/4しか空気がありません。ごく単純に言えば、地上では3回の呼吸で取り込める酸素を4回呼吸しないと取り込めないことになります。
しかし呼吸数が増加すると二酸化炭素の排泄が増加し、そのために体液中の二酸化炭素が減少します。二酸化炭素はプロトン供給源ですから、それが減少することにより体液のpHはアルカリ性に傾きます。これが呼吸性アルカローシスです。臨床的には頭痛やめまい、知覚障害、嘔気などを呈します。
アセタゾラミドは、近位尿細管における炭酸→プロトン+重炭酸の反応を触媒する炭酸脱水酵素を阻害します。それによる炭酸の消費を減少させることで呼吸性アルカローシスを改善します。一方でこの反応で、プロトンはNaとの交換により水を再吸収しつつ排泄されてますので、ここを阻害することにより水の再吸収も阻害され、利尿作用が現れます。

では早速、シナリオのPECOから登山を始めましょうか。

(外に出ると濃霧と霧雨。雲に覆われたらしい。気分が萎える……)

P:富士山に登ろうとするEBM勉強中の30代薬剤師
E:アセタゾラミドを予防投与して登山
C:何も薬を飲まずに登山
O:高山病の発症を防げるか?
こんな感じで考えてみましたが、皆さんどう思いますか?
シナリオってそれこそ無限に考えられるので、こういうのも有りだと思います。
P:富士山に登ろうとするEBM勉強中の30代薬剤師
E:富士山に登りながら論文を読む
C:地上で落ち着いて論文を読む
O:エビデンスの評価が変わるか?
これOが「将来的に職場での振る舞いが変わる→皆からの評価が変わるか?」
でも面白いかもしれませんね!
もちろん、今回論文を読むために限定すると、最初のPECOが無難です。

(霧が晴れて月が見えてきた)

(風が強く寒いので、Tシャツの上にフリースを早速羽織る)

ではワークシートの方、参りましょう。
まず「論文のPECOは?」
P:Abstractからは分かりにくいんですが、本文2ページ目のMethodsのとこですね。3000m以上登る16歳以上の健常者です。
以下、Abstractに書いてあるので済ませます。
E:アセタゾラミドを1日250mg、500mg、750mg、
C:プラセボ
O:高山病の予防
この論文、比較的PECOは明瞭ですね。PECOの分からない論文は読むに値しない論文です。

(六合目に到着。この辺りからまた濃霧に包まれる)

(濡れ始めたので雨具を装着)

一次アウトカムは明確か?というポイントに参りましょう。
2ページ目のOutcome measuresのところですね、いきなり書いてあります(The primary outcome was absence of acute mountain sickness)。そしてその「高山病」の定義ですが、その続きの部分にありますね、頭痛+消化器症状かめまいかもうろう状態か不眠か疲労の1つということになってるようです。
高山病の評価についてはLake Louiseのスコアというのがあるようですが、必ずしもこれに限らずデータを集めてきたようですね。これでは「高山病」という定義がいささか曖昧になるような気がしますが、まあそこは念頭に置いたまま次に進みましょうか。

(標高3000m突破)

(登るにつれて濃霧が明らかな水滴となり、強風で横から吹きつけてきます)

では、真のアウトカムかどうかについて。
山に登る者にとっては高山病にならないというのは重要なアウトカムには違いないですが、やはり一番の目的は「登頂」であるのではないかと思います(そして無事に下山することも)。
高山病が登頂率にどの程度影響するのでしょうか?まあ、富士山ぐらいの3000m級の山なら肺水腫や脳浮腫まで進行するのは極めてまれだと思いますし、軽ければ頑張って登ってしまえます。現にワタクシも軽い高山病症状に耐えつつ登頂した経験がありますし。
ということは、高山病は登山者にとっての真のアウトカムではないんじゃないかというのが個人的な意見です。登山においてもっと登頂や生還を左右するハードなファクターは他にもあり、富士山程度では高山病の事前確率というのはさほど高くない印象です。(もちろん、キリマンジャロみたいな山に登るんなら別でしょうけど)
まあ実際ひどい高山病はホントにしんどいらしく、登頂断念につながる事象ですから、ここはまあ一応真のアウトカムであろうということにしといて、とりあえず先に進んで考えてみたいと思います。

(が、この辺りで風雨が激しくなる)

(ヘッドライトだけでは視界ほぼ足下のみ。場所によっては立ってられない強風だったので風速30mぐらい?)

(八合目ではiPhoneを取り出したら一瞬でずぶ濡れに)

(そのためツイートによる抄読会を一時中断。登頂できるか不安になってきた。さすがに断念して下山を始める人が増えてきた)

(思い切って九合目まで登ったらますます激しい風雨に……水はけ良さそうな富士山なのに登山道が川になっててもう歩くたびに靴の中から水が溢れます)

(抄読会続行どころか自分の命が続行できるか心配になり山小屋に避難)

(カレーうどんうめえ!)

(ちなみに1杯1000円もしたが、この価値はこの文脈上においてのみ理解できるだろう)

(ここで登山続行の判断をするのに雨雲レーダーなどネットで得られる情報がかなり役に立った。ここでフル装備に変身!)

(九合五勺に到着。風は強いが雨が弱まった)

(では抄読会を再開しましょう)
メタ分析4つのバイアスについて考えていきましょう。
まず評価者バイアス。これはStudy selection and evaluationの最初の文章ですね。二人の評価者が独立して評価したと書いてあります。そしてどのような評価をしたのかはその下のRisk of biasのとこにもコクランのツールでrisk of biasを評価したと書いてますが、ここは後述の元論文バイアスのところで評価しましょう。
次に出版バイアスを見てみましょう。
これはLiterature searchのとこに未出版の文献も探したということや、4ページ目左上のRisk of biasの文章に、funnel plotを使ったという記述がありまして、論文中に図示はされてませんが、まあ普通に解釈すると出版バイアスは否定的な印象ですね。
では次は元論文バイアスですね。これはMethodsのLiterature searchのところにRCTを拾ったものであることが書いてありますね。そしてrisk of biasをコクランのツールで評価したと書いてますが、まあ簡単に言うと、RCTの様々なポイントを批判的吟味するツールで、
・sequence generation
・allocation concealment
・blinding(解析者も含む)
・incomplete outcome data
・selective outcome reporting
といった項目をそれぞれ適切か不適切か不明で評価するものです。具体的には、11ページ目のTable2, Risk of bias of included studyにある項目を見てみましょう。多分今までのRCTに関する配信を聞いたことがある人ならどこをどう評価するのかだいたい分かると思います。
最後に、異質性バイアスですが、4ページ目の右下にありますね、Heterogeneityという文章が。そこを読むと、I2は250mg群で15%、500mg群では0%、と異質性は少ないという印象ですね(750mg群では44%とやや異質性あるか)。

論文の批判的吟味はここで終了です。
どうですか?登山しながらでも読めちゃいましたよね。


(ついに山頂が見えてきました!)

(そして午前5時5分、ついに登頂に成功!)

(……本来はこの方向に御来光が見えるはずなのですが……)

ではまず結果の解釈ですけど、アセタゾラミドって高山病予防に結構効くんですね。オッズ比で0.36ですよ。で、250mgでも十分よく効いてるんですね。NNTで6ですから。しかも750mgいくとNNTが3!よく効いてますね。こりゃええわい♪となりそうです。シナリオの30歳男性も、全体ではよく分かりませんが、個々のRCTでは平均年齢が30代ぐらいの男性というスタディが多く、メタ解析された被験者集団に当てはまらないという心配は無さそうです。まあ、若干最終的に到達する高度が高いですかね。

それはそれで、シナリオへの適用を考える際は、必ず「その論文はその患者にとって重要なアウトカムを全て評価しているか?」ということもチェックしなければなりません。……例えば副作用ですね。
副作用についての記載を探すと、これが本文中にしか書いてないのでAdverse effectのとこを見ますと、副作用データの完全な統合まではされてないようなんですが、知覚異常が49%に発症!なんですね。それからもちろん尿意も増えることが書いてありますね。
富士山の場合、トイレが無いですから(あっても有料)、頻尿は結構ツライかもしれません・・・まあ、200円ぐらいですし今日とは違って暖かい日ならそんなにトイレに行きたくもならないでしょうしね。


(最高峰へ向かう道「馬の背」は狭い尾根を暴風が吹き荒れる恐怖の世界に……)

なお、今回のエビデンスの評価については
@syuichiao先生の過去のブログ記事「高山病予防にアセタゾラミドは有効か?」や
@pharmasahiro先生のまとめ「アセタゾラミドの高山病予防投与に関する考察」も
合わせてお読み下さい。
(言うなれば、「地上で読む」という文脈での記事です)

なのでその点、こうして登山しながら読み、山頂でエビデンスの適用を考えるというこの企画においてワタクシが考えたことは、富士山程度の山じゃアセタゾラミドの予防投与は要らないんじゃないかということです。これはこれまで3回富士山に登ったワタクシの経験も入ってますが、富士登山はペースに気を付ければ高山病は発症しないか我慢できる程度で済みます。酷い頭痛で登山を楽しめないとか、肺水腫まで起こして下山を余儀なくされるという確率はかなり低いでしょう。その一方で、アセタゾラミドは高頻度に(数十%のレベルで)知覚異常(手足のしびれ)や頻尿が出現しますので、そちらで悩まされる懸念の方が大きいんじゃないかと思います。
一方で、今回のシナリオの「患者」は薬剤師です。
そのことを踏まえると、上記の副作用を踏まえて登山直前に1錠飲んでおくぐらいならいいかもしれないし、アセタゾラミドに高山病という承認効能は無いので一般の方が入手するには保険の使えない自由診療になりますが、薬剤師なら自分で飲む場合は自分で買うこともできます(事情により難しい場合もありますが)。実際に試してみて、それこそいつか観光登山としては世界最高峰クラスのキリマンジャロにでも登る際の薬効の感覚を掴んでみるのだとしたら、面白いかもしれませんね。


ということで、登頂の記念撮影。


山頂の気圧は646hPa!地上の2/3しか空気がありません。
高山病にならずとも、ちょっと動いたり長くしゃべってると息が切れます。

その後はあまりに視界も悪いので、すぐ下山。

降りるにしたがって霧が晴れてきて万年雪が見られたり、


雲の切れ間から美しい景色が見えたりしました。


う〜ん、こんな天気の時に登りたかった!

ということで、
今回は試験的に企画したJJCLIP番外編でした。
天候やワタクシの力量不足もあって
十分に盛り上げることができませんでしたが
また機会を改めて、それこそ今度こそ御来光を狙って
リベンジ企画をやってみてもいいかなと思ってますんで
皆様今後ともどうぞよろしくお願いします。

そして今回のようなハチャメチャな企画でも
「EBMの実践って面白いな!」って思っていただけた方は
ぜひ私達と一緒に楽しく学んでみませんか?


薬剤師のジャーナルクラブは薬剤師による薬剤師のための情報共有と穏やかな学びを目的としたSNSを利用したコミュニティです。現在は@syuichiao先生と@pharmasahiro先生とワタクシの3名をコアメンバーとしております。



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