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精神科薬物療法のエビデンスを読む時に気を付けたいこと

昨日は岡山で
「処方提案に活かせる精神科薬物療法のエビデンスの読み方使い方」
というテーマで講演してきました。
その中では薬剤師のジャーナルクラブ『JJCLIP』の宣伝を兼ねて
(過去の配信データはhttp://twitcasting.tv/89089314/show/から聞けます)
いつも使ってるワークシート@syuichiao先生作成)を使って
実際に10分でRCTの批判的吟味をしてみせたのですが、
そこで話しきれなかったこと、もっと強調したかったとこなど
ちょっとここにまとめておきます。

まず、題材としてとりあげたのは以下の論文でした。

Keck PE, Orsulak PJ, Cutler AJ, Sanchez R, Torbeyns A, Marcus RN, McQuade RD, Carson WH; CN138-135 Study Group.
Aripiprazole monotherapy in the treatment of acute bipolar I mania: a randomized, double-blind, placebo- and lithium-controlled study.
J Affect Disord. 2009; 112: 36-49.
PubMed PMID: 18835043.

なぜコレを使ったのかというと、
リンク先の通りこれはフリーで読めない論文なのですが、
大塚製薬さんが日本語訳まで持っていて、英語のフルテキストと共に
当日全員に配布させてもらえたからという都合上の理由なのですが、
これが全文読んでみるとなかなか味わい深い論文なんですね。
まあその辺りこれから少しずつ話します。

精神科薬物療法に関する論文を読む上で気を付けないといけないのは
とにかく「脱落が多い」ということです。
例えば上記論文はわずか3週間の試験期間の間に
アリピプラゾール群もプラセボ群も炭酸リチウム群も
それぞれおよそ半分が脱落しているんですね。
これは例えば高血圧や糖尿病治療薬を扱ったRCTと比較すると
ちょっと信じられない脱落率だと思うんですが、
そこは精神科の特殊事情かもしれません。

一般的には精神疾患に対する薬物療法は
精神疾患自体が慢性的な経過をたどる病気であるため
非常に長い期間薬を飲み続けることが必要になってきます。
が、それはそれなりに効果があって副作用も許容範囲内であることが必要で、
まずそのような「自分に合った薬」に患者さんが出会う必要があります。
実は精神疾患は症候群的な診断であり
単一の病態が存在しているわけではなく症状も多彩なので
例えば統合失調症にはドパミンアンタゴニストが有効ですが、
とある一人の統合失調症患者さんに対してハロペリドールは有効だったけど
リスペリドンにしたら全く無効でブロナンセリンなら著効した、
とかいうことが普通にありえるんですね。
高血圧に対するカルシウム拮抗薬はどれを使ってもそれなりに血圧が下がるのとは対照的です。

要するに一発勝負で治療薬が決まるわけではなく、
いくらか試行錯誤の後に、もしくは試行錯誤しながら治療が進んでいくわけです。

一方で今回のような双極性障害の躁病相の治療の場合、
そうですね、今回題材にした論文ではYMRSで20点以上がエントリーされてますから
中等症以上の躁状態であり入院が必要なレベルなんですけども、
それぐらいの状態というのは患者さんの興奮や消耗も激しいので
薬は十分量を十分期間使いながらもできるだけ早く効果と忍容性を判断し
効果不十分や忍容不可の場合は早めに別の薬への変更が必要になります。

つまり、
どの薬が効くのか事前に分からない、
早く症状を改善させるために早めに有効性の判定が必要、
そういったことでどうしても当初の治療薬で継続できない人が多く発生し
それが脱落として扱われてしまうということです。

実際にこの論文におけるアリピプラゾール群の中止例82名(53%)の内訳を見ますと、
有効性の欠如:9 (6%)
同意の撤回:32 (21%)
追跡不能:15 (10%)
有害事象:23 (15%)
その他:3 (2%)
となっています。
ちなみにプラセボ群の中止例87名(53%)では以下の通りです。
有効性の欠如:36 (22%)
同意の撤回:25 (15%)
追跡不能:10 (6%)
有害事象:13 (8%)
その他:3 (2%)
(「同意の撤回」というのは多分コンプライアンス不良が多く入っているんじゃないかと推察します。同意が取れない、それがコロコロ変わるというのも精神科急性期に特徴的かもしれません)

さて、そんな感じでどうしてもボロボロと試験からは脱落しがちなんですが、
それを全部解析から除外してしまうと
「ずっと薬を飲めた人だけ」のデータになってしまい、
臨床で欲しいのはそのようなefficacyのデータではなく
これから薬を飲むとどうなるか?というeffectivenessのデータなのですから
それではいけません。
もちろん両群で脱落のパターンが異なる場合は結果に重大なバイアスがかかります。
サンプルサイズも小さくなるので、脱落を補うためにはその分余計に多くの人をエントリーしなければならなくなります。(通常、多過ぎるサンプルはコストの面でも倫理的にも問題がある)

ではどのように解析するか?
そこでよく使われるのがLOCF法(Last Observation Carried Forward)です。
これは脱落例のアウトカムはそれ以後試験終了まで同じと仮定して
脱落時点のアウトカムで解析してしまう方法です。
欠測データの扱いについてはいろんなやり方がありますが、
LOCF法は比較的シンプルで理解しやすい利点があります。
しかし、あくまで「脱落以後のアウトカムは不変」が前提ですので、
その前提が崩れる場合はバイアスが大きくなる可能性があります。
精神疾患の場合は「効果不十分」による脱落例では
精神症状が悪化していることが考えられるので
あまりに脱落パターンに違いがある場合は注意しなければなりませんし
実際の臨床効果の大きさとは少しずれが生じるかもしれません。

それから、先ほどアリピプラゾール群とプラセボ群の脱落率を示しましたが、
いささか脱落理由が違いますよね?(特に有効性欠如と有害事象)
つまり、そこでブラインド(盲検化)が破られる可能性があります。
抗精神病薬は錐体外路症状などの副作用が出やすく、
(アリピプラゾールは比較的少ない薬ですが)
それが出るとプラセボではないことが自他ともに分かってしまいます。
精神疾患の薬物療法のRCTにおいて、盲検化は時に難しいのです。

最後に、最も大事なポイントを挙げます。
それはやはり「真のアウトカム」です。
精神疾患の真のアウトカムとは何でしょう?
例えば今回の論文のようなYMRSという評価尺度は真のアウトカムになるのでしょうか?
実は精神疾患の症状評価尺度は完全には客観的ではありません。
患者本人が評価するか、その言葉や様子から評価者が評価するものばかりだからです。
そんなアウトカムが真のアウトカムになるのか、
これは正直ワタクシにもよく分からないところです。
もちろん、死なないことは真のアウトカムですし、
長期入院なんてのは「社会的な死」とも言えますから
退院や社会復帰といったアウトカムは間違いなく真のアウトカムです。
症状の重症度は確かに退院を判断する際の指標にはなりますから
真のアウトカムに直結したアウトカムと言えるかもしれませんし、
必ずしもそれだけで退院が決まるわけではないので
所詮は代用のアウトカムと言えてしまうかもしれません。
ここはそれぞれの環境で、そして患者さん一人一人で
何が真のアウトカムになるのかを考えていく必要があります。

脱落が多いこと、
LOCF法等欠測データの扱い、
盲検化の難しさ、
アウトカムの評価、
以上の点に注意して、一緒に精神科薬物療法のエビデンスを読んでみませんか?

(追記)
ちなみに講演の中で例示した臨床シナリオは、炭酸リチウムでしばらく安定してたけど腎機能低下で中止を余儀なくされ、バルプロ酸に変えたら妄想を伴う躁鬱混合エピソードで再発したという双極性障害の1例なんてのだったんですけど、
講演を聞いて下さった皆さんはこういった症例にアリピプラゾールを使うのはどういう印象を持たれたのでしょうか。

(追記2)
実は講演中では時間も無いし初心者には難しいかなと思ったので触れませんでしたけど、詳しく読んでみると色々微妙な論文なんですよね。
まずランダム化の方法が不明だし、割付の隠蔽化についても不明です。
上記の通り盲検化はややバレ気味だった可能性があるし、YMRS平均変化量がAPZ -12.6 vs プラセボ-9.0と、60点満点のYMRSスコアのうち3.6点の差というのは臨床的にはかなり微妙です。
しかもサンプルサイズの計算の段階では5.5点の差を想定しているんですが、多分そんな差がつかなかったからか、少し多めにエントリーしてやっと有意差がついたように見えるし、てゆーかその部分が日本語訳ではカットされているし、まあ伝統的な治療薬である炭酸リチウムと同等ではあるのでAPZが双極性障害の躁病エピソードに効かないとは思いませんけど、かなりモヤモヤ感の強い論文ではあります。


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