今日、アップル社の創業者にして前CEOのスティーブ・ジョブズ氏が亡くなられた。
「パソコン」と呼ばれるものを持っている人は皆、彼に哀悼の意を捧ぐべきだ。
なぜならパーソナルコンピュータという概念を最初に創造したのは彼だからだ。
・・・需要を創造する・・・
これこそがイノベーションである。
実は「顧客」というものは欲しいものが形になって現れない限り
それを欲しいということを自覚しない。
つまり潜在的なウォンツを形にするのである。
彼の人生はイノベーションの連続であった。
以下、彼の人生をおおざっぱに述べるが、
自分の豆知識から引っ張ってきてるので細かい間違いはご容赦いただきたい。
さて、
ジョブズ氏は大学中退後、友人と自宅のガレージで
その後世界を変えることになるコンピュータを創る。
それがApple I、Apple IIであった。
爆発的なヒットとなったこれら個人向けコンピュータでひと財産築いた彼は
次のイノベーションを起こす。
それがマウスによるアイコンのクリックでコンピュータを操作する、
Graphical User Interfaceを採用した"Macintosh"だ。
これでパソコンは一気に消費者に身近な存在になった。
あなたのパソコンの画面に「ゴミ箱」は見えるか?
見えたらジョブズ氏に感謝しましょう。これも彼の発明なのだから。
しかしその後、彼は社内クーデターでアップル社を追放されてしまう。
ここからの約10年間は彼にとって大いなる挫折と雌伏の期間であった。
NEXTSTEPというOSを開発したり、
ピクサー社を立ち上げてコンピュータグラフィックスやアニメーションも手掛けたりしたが
比較的地味な成功にとどまっている。
1995年になると、経営危機に陥っていたアップル社に
自身が開発したNEXTSTEPを買い取らせる形で経営者に復帰。
(このNEXTSTEPがベースになって今のMac OS Xができた)
辣腕をふるって社内のリストラに着手するとともに次のイノベーションを起こす。
そう、あのスケルトンボディが有名な初代"iMac"だ。
これはそれまでパソコンは実用的なもので、性能や使い勝手で選んでいた顧客に対して
「デザインで選ぶ」という選択肢を提供した。
さらにこれまでライバルだったマイクロソフト社と業務提携、
MacでもIEやOfficeなどのスタンダードとなったソフトが使えるようになる。
そして次に"iPod"と"iTunes"。
ちなみにここですごいのは、iPodというハードとiTunesというソフトではない。
彼は音楽業界を動かして、それまで各レコード会社の縄張り争いのため不可能とされてきた
どの楽曲でも"iTunes Store"でインターネットで購入することを可能にした点である。
その後は皆さんもご存知の通り、
「スマートフォン」という言葉を再定義した"iPhone"、
そしてタブレット型端末の"iPad"、
彼はそれまでユーザーが「欲しい」と認識すらしていなかったものを
自ら創造することで需要を喚起してきたのだ。
iPhoneやiPadも発売当初は「ホントに売れるのか?」という声が少なくなかったと聞くが
今やその猿真似製品がボコボコ出てくる状況を見て
これが一時のブームか何かの間違いであると言える人はもはやいないであろう。
ジョブズ氏は、最初にApple Iを創った時からiPadを産み出すまで
次々とイノベーションを繰り返してきたのである。
そこにはその時代時代のテクノロジーと
彼の芸術とも言うべきインスピレーションとの結合があったとも言える。
ソフトバンクの孫社長が、彼の死に対してツイッターでこう言っている。
「スティーブ・ジョブズは、芸術とテクノロジーを両立させた正に現代の天才だった。数百年後の人々は、彼とレオナルド・ダ・ヴィンチを並び称する事であろう。」
彼はものづくりの天才であったわけだが、
そのイノベーション精神は我々が受け継ぐことができないものではない。
しばしば医療は「サイエンスとアート」からなると言われる。
サイエンスによって産み出された、今ここにある技術や根拠を
一人一人の患者さんというキャンパスに適用していくのはまさにアートである。
そこに我々医療従事者はイノベーションを起こせる可能性を秘めているのだ。
私は薬剤師だから、さすがに世界は変えられないだろうが、
この狭い精神科の世界だったらいつか変えられるんじゃないか?
そういう考え方を教えてくれたのが、ジョブズ氏の生き方だった。
この度のジョブズ氏の死は世界にとって非常に大きな喪失体験であるが、
まさにレオナルド・ダ・ヴィンチやトーマス・エジソンらと並び讃えるべき人間と
同じ時代に生きていたことは非常に幸運であったのだ。
これを機会に、イノベーションという生き方を一人一人考えてみてはどうだろうか?